自分の心のことをしっかり知っていれば、悩むと分かっている「災」の中にわざわざ足を踏み入れることはしません。
悩む心を癒す方法さえ知っていれば、傷を治しながら、前に進めるはずです。
哲学と心理学には、「答えがそれぞれに違う」という共通点があるのだそうです。絶対的な解答ではなく、「自分だけの答えを見つける」ことが大切なのです。
成功が成功を破壊する?!
「強い力を持った者こそ、謙虚であるべし」
なぜ強い力を持った者自身が謙虚である必要があるのかといえば、それは「強い力を持った者自身が成功を破壊する存在」だから。強い力を持った者のなかで、バランスをとろうとする力が働くからなのだそうです。成功すればそのぶんだけ、その成功を破壊する力も強くなるということ。そして大きな目標であればあるほど、「影」の部分も大きくなり、破壊する力は強くなるのだといいます。
成功すればするほど、自惚れたり、まわりを見下して天狗になったりしてしまいがち。しかしそれではもったいない。成功したうえで謙虚でいれば、多くの人がそれを称賛し、さらなる成功をも引き寄せることができるかもしれないのに…
ただ「成功すること」だけに目線を向けていたのでは、決して本当の成功とはいえない。その成功の表面にある影にも目を向け、対処していかなければいけないという考え方。いわば「自分の成功に対して「短絡的に楽観視しているだけだと痛い目を見るよ」ということ。自身の意識下で「いばる自分」を認識し、自力で抑えることができないと、成功してもすぐ成功を壊してしまうというわけです。
成功したければ、あえて「逆」を
生きている限り、戦わざるを得ない状況は誰にでもあるものです。学校、会社、家庭内などには往々にして、強制的に参加させられる「戦う状況」があるということ。老子は「水のように争うことなく生きよう」というけれども、そんなにうまくはいかないですよね。しかし、そんな人に対して老子は、「正面衝突ではなく、その逆の手を使って戦うのが良し」という教えを説いているのだそうです。
現代的に見れば
「相手を黙らせたいのであれば、その逆! 反論せずに気が済むまで話させる」
「相手から貰いたいのであれば、その逆! まずはこちらから与える」
「相手を押さえつけたいのであれば、その逆! まずは自由に泳がせておく」
ということです。
つまりは、相手を油断させておいて、「隙をつく」ということ。
似たような言葉を、孫子も残しているのだそうです。
それは、「始如処女、後加脱兎(はじめは処女の如く、後は脱兎の如し)」というもの。
つまり、「戦いの始まりは弱々しく見せて、相手を油断させておく。そして戦いの勝敗を左右する場面になったら、素早く攻勢に出て、一気にたたみかける。それが戦いの基本だ」という意味。だからこそ、戦わざるを得ない状況を出くわした際には、この教えを実践してみるといいのでは。
本当に強い者は争わない
老子の「上善若水」という有名な言葉の意味は、端的にいえば「水こそ最強」ということ。老子は水に「最上の善」という意味をつけていたのだそうです。つまり、争いを避けて生きようという提案。
老子が生きていたのは、国同士の争いばかりで、戦で利を得ようという生き方が一般的だった時代ですよね。「人を蹴落としてでも上を目指そう」という考えが当たり前のものだったということです。老子はそんな時代にあえて、「水のように人と争わず、常に低いとこ露に止まりなさい」と、生き方の見本として”水”を挙げたわけです。
当然ながら、水は原則として上流から下流に、上から下に落ちるもの。そして下へ下へと移動し、やがて広大な海につながります。なお、アドラーの「競争しない」という教えも、これと同じ意味にあたるのだとか。
「競争から降りて生きる」というと、負けを認めるような気がする方もいるかもしれません。
しかし、ここには重要なポイントがあるといいます。考えてみるべきは、「水が流れているところに石を落としたらどうなるか?」ということ。いうまでもなく、水は石を避けて流れます。いってみれば「石と戦うぞ!」と石を動かそうとするのではなく、「他の場所を通ります」と、決して争うことをしないわけです。
しかしそうでありながら、水は少しずつ土や石を動かして削っていき、いずれ穴を開けてしまうこともあるもの。争うことを避けながらも、実はそれだけの力を持っているわけです。実体があるもののなかで、「なによりも柔らかいのに、なによりも強い」水のように、「争うことなく低いところに止まる」ことが、なによりも素晴らしい生き方だという考え方です。
自分のために生きることが人のためになる?!
仏教には「自利利他」という教えがあります。
「自利」…自分の利益のために努力すること。修行すること。
→他人より自分優先
「利他」…他人の利益のために努力すること。
→自分より他人
「自利利他」とは、言葉どおり「2つで1つ」だということ。
つまり「他人の利益のために努力すれば、それはいずれ自分にも返ってくる。だから利他を積極的にしましょう」ということ。アドラーの言葉でいえば、「他者貢献」がこれに相当するもの。
本当に強い人間、力を持った人間はその力を誇示するのではなく、より謙虚にそしてその力を上手く使う事によって、結果さらなる人間の高みを目指せるのではないでしょうか。
それが、もう一つ上の成功をもたらすのです。